私、実は遭難に興味があって、遭難事例を調べるのが好きです。
人が遭難する、不幸になるのが楽しい、といった悪趣味なものではなく、遭難から生き残る時の、全身全霊を掛けた人間のチャレンジ、ドラマが大好きです。
その最たるものが、日本歴代最高のアルパインクライマーの呼び声高い、山野井さんの垂直の記憶という本です。
妻の妙子さん(当時、女性で世界の3本の指に入るクライマー)と共に、ギャチュン・カンの未踏ルートに登った直後、暴風雪の中雪崩に遭い、滑落。
視力もほとんどないなか、文字通り手探りで下降を開始し、岩肌を探るために手袋を外した指を一本、また一本と犠牲にしながら妙子さんを助けに行き、最後は生還を果たす話です。
実話です!
スケールは違いますが、一般の登山者の遭難からの生存体験談にも、変わらない感動があります。
そしてそういった遭難体験談を調べていく中で、自分なりに遭難に関する考えがまとまってきたので、興味がある方はご一読下さい。
まず、遭難には自力で復帰できるデッドラインがあります。
ケガや道迷いなど、様々な要因で遭難するわけですが、この「自力で復帰できるデッドライン」は、各自の能力と装備で決まります。
イギリスの特殊部隊なんかでは匍匐前進のみで10kmの山岳移動訓練などもするそうです。
そこまで体力がなくても、持っている装備次第で生還するかどうかも決まってきます。
そこで私は、まず遭難を3段階にわけて考えてみました。
LEVEL.1 自力での下山に恐怖を覚える・苦痛を感じる
LEVEL.2 自力での下山が困難
LEVEL.3 自力での生命の維持が困難
以下に、各項目の例と、遭難からの復帰方法・装備を述べます。
異論、反論はあると思いますが、素人の一考察ですので、生暖かく見守ってください。
LEVEL.1 自力での下山に恐怖を覚える・苦痛を感じる
代表的な例としては、道迷い、軽い捻挫などの歩ける程度の傷病、悪天候(暴風雨、雪山でのホワイトアウトなど)です。
長く登山をしている方にとっては、どれも経験のあるものばかりだと思います。
私もすべて、何度も経験がありますが、この段階で警察に助けを求める方が非常に多くなっているそうです。
道迷いは、トレースが二手に分かれ、そこからトレースが薄くなった、と思ったら、すぐに引き返し、二手に分かれた箇所で地図を確認すれば、まず復帰できます。
また、紙の地図がなくとも、現在ならYAMAPなどの登山地図アプリがあれば、まず迷いません。
それすら用意していないのなら、山には来ないほうが賢明です。
軽傷病は、やはり薬やファーストエイドキットの準備をしておかないと、下山の苦しさが増します。
捻挫、切り傷、打撲など軽度なら、ガーゼ、テーピングテープの二つが有れば切り抜けられそうですし、痛み止めのロキソニンがあれば、下山まで持つことがほとんどでしょう。
厄介なのが悪天候。突然の暴風雨やホワイトアウトなどの気象の変化は、自分自身ではコントロール出来ません。
下界が快晴だろうがなんだろうが、3000M級の山では豪雨になったりもします。
こういった場合、やはり装備が物をいう。
雨具やツエルトはこういった時にこそ役に立ち、ビバークして天候の良化を待つだけで危険を回避出来ます。
装備・準備がなっていないと、ホワイトアウトの中歩いて滑落したり、暴風雨の中歩いて低体温に陥って行動不能になったりして、たくさんの方が無くなっています。
ここまでに述べたレベル1の遭難(実際には遭難ですらない)は、準備さえしておけば怖くない、多くの登山者が普通に乗り越えてきたものです。
ただ、初心者こそ、しっかりとした装備が無いと、次のレベル2に移行し、最悪死亡する事さえあるので、地図(もしくはアプリ)、ファーストエイドキット、ツエルトと雨具は、絶対に準備して入山する必要があるのではないでしょうか。
他に疲労困憊で警察を呼ぶ人もいますが、それは歩いて下さい。
疲労困憊になってからが、人間の底力の見せ所です。そこから何時間も走れたりするのが人間ですから。
LEVEL.2 自力での下山が困難
例として、足の骨折などの大けがや発病、厳冬期の吹雪などの超悪天候です。
大ケガの場合、大きく行動の分かれ目となるのが、「同行者がいるかどうか」です。
「単独での下山は難しいが多少の移動は出来る」程度のケガなら、同行者がいれば手伝ってもらって、下山が叶うことも多いでしょう。
個人的には同行者がいて、日暮れまでに下山出来そうなら助けを求めずに下山した方が良いと思います。
そのトラブル対応も含めての山、だと思うので。
しかしこれも最近は高齢者ばかりのパーティーが増え、4,5人も同行者がいるのに救助を呼び、救助隊が一人で要救護者を背負っていても何も手伝わず・・・みたいな事もあるそうですから、体力次第では何人いようが、頼りにはならないのかもしれません。
吹雪や大雪で行動不能になった場合でも、複数人いれば当然雪洞を掘ったりしてビバークすれば問題ないわけですが、実際には厳冬期の複数人パーティーの遭難死は珍しいことではありません。
統計があるわけではないので、決めつけるわけにはいきませんが、ビバークしているにも関わらず低体温で死亡したパーティーの殆どが、テントによるビバークをしている様に思います。
雪洞と比べると圧倒的に気温が下がりますから、厳冬期のテント・ツエルトでのビバークは避けるべきかもしれません
(※厳冬期のビバーク経験が一度も無いので想像です。)
そして、問題は単独行です。
大けがで自力での下山がかなわない場合、まず救援を期待したいわけです。
一番良いのは携帯電話での救助要請ですが、一番電波の届くdocomoのfoma+エリアですら、谷間では圏外になる事が多いです。
だからなんとか、尾根などの電波状況の良い場所まで移動したいところです。
最近はサボっていますが、初心者の頃はサービスエリアをあらかじめ調べてから入山していました。
そこまでの移動が困難な時の為に、家族に「どこどこに行ってきます。○○日の〇時までに連絡が無ければ捜索を依頼して」と伝えてから山に行くのが良いと思っています。
私はLINEで入山、下山の連絡も欠かさない様にしています。
ここで重要なのは、こちらが生きていると思ってもらわないと、警察は1週間程度で捜索を打ち切る、ということです。
だから体が痛くても、1週間以上生き延びる自信があるなら、なんとか警察に連絡出来る場所に移動した方が、じっとしているよりも生きて帰る確率が高まるように思います。
さて、無事に警察が動き始めたとしても、救助まで生き残る必要があります。
そこでまず重要になってくるのが体温の保持です。
トレランの必携品に「防寒具」があるのは、行動不能になった時のことを考えてです。
ツエルトとある程度の防寒具で体温さえ保持出来て、出血さえなければ相当な時間、生きられるはずです。
ですからここでも、ツエルトが重要!あと、防寒具。
防寒具に関して、最近気づきましたが、ケガをした時の為に、あまりピタッとしたものではなく、着やすい、少し余裕のあるものが良いかもしれません。
ココヘリに入っていれば、この段階なら単独行でも、ほぼ助かるのではないでしょうか。
厳冬期の吹雪、大雪の際は・・・単独行だと本当にしんどいと思います。
雪洞掘るのも一苦労。
というか、胸まであるラッセルなんかすると、一時間で500メートルも進めません。数分後には死んでもおかしくないんじゃないか、とも思います。
厳冬期の単独行は、常に遭難スレスレだと心した方がいいです。
私の様な雪山初心者の山行ですら、です。
的確な方法を上げられず申し訳ありませんが、雪山ではとにかく防寒具は大目に持っていく。
特にグローブとソックス、バラクラバは替えを持っていく。
でも多分、救助要請出来ても、行動不能の雪の下では救助が来ませんし、単独行者は死にます。
ココヘリに入っていても、多分、ヘリが飛びません。
LEVEL.3 自力での生命の維持が困難
大出血を伴うケガなど。
同行者がいれば、ツエルトだけ設営して貰って、助けを呼びに行ってもらう他はありません。
同行者が複数人いれば、当然付き添いも重要でしょうが。
やはりここでも、単独行者は絶対的に危険です。
しかも行動不能になった地点が、道迷いの末で、登山道から外れていたりすると、おそらく、救助要請も難しいでしょう。
ツエルトが有って、防寒具も有って。それでも時間との戦いです。
なるべく早く警察に動いてもらう為に、やはり家族にこの時間を過ぎたら捜索依頼してくれ、という事は話しておくべきだと思います。
ココヘリなら捜索依頼が有って、入山した山さえわかって、ヘリさえ飛ぶ天候なら、ピンポイントで場所が分かります。
単独行者がこの段階から復帰するには、
- 家族に捜索依頼のリミット時間を伝えておく
- 登山届をだす。最悪、どの山に行くか、残る形で家族に伝える
- ココヘリに入る
しかないと思います。
書いていて思いました。
ココヘリに入ろっと。
以前も言いましたが、最悪なのは、死体すら発見されない場合です。
7年は死亡したとみなされない為、住宅ローンは保険は適用されずにそのまま残り、遺族保険は出ず、生命保険も出ず、勤め先によっては退職金も減額、となる可能性も・・・。
家族の為に、ちゃんと家に帰りましょう、生死は二の次としても!