以前にも触れましたが、私は東京に出てから約10年後、今の故郷に帰ってきました。
といっても実は、最初は同じ市町村とはいえ、もっとずっと田舎に住んでいたのです。
東京に住んでいた頃、仕事は順調でしたが、のっぴきならない事情があり、故郷に帰る事になりました。
その際、相談した故郷の役所の方が、「Iターンに向けた移住推進制度」を紹介して下さったのです。
詳しい事は省きますが、要は、
「超過疎地で無料同然で家を貸すから、一定期間内にその地域に家を買うか建てて住め」
という制度です。
役所の方の説明では
- 家も土地も腐るほどあるからいくらでも安く買える
- 地元の人は若い人を心待ちにしているから相当歓迎される
- 仕事も町まで出ればいくらでもあるから斡旋してあげる
- 高度が高いから夏でも涼しく、水もおいしい
- 学校も幼稚園も生徒数が少ないから学力が高くなる
という様な内容だったので、わりと希望を持って里帰りならぬ里近く帰りをしたわけです。
しかし、この説明がすべてウソ、というわけではないですが、田舎生活は一筋縄ではいきませんでした。
田舎暮らしに憧れる方には是非読んで欲しいのですが、実は田舎暮らしには田舎の、特別なコストがあります。
田舎ならではの特別なコスト
まず、光熱費。
都市ガスがあるはずもなく、プロパンガスなのですが、それすら都市部と比べると圧倒的に高いです。選択肢もほぼなし。
新築でオール電化にすれば別ですが・・あなどれない費用です。
気温の差もありますが、東京の都市ガスの倍と考えても差し支えありません。
また、市町村によっては、水道代も都市部よりも高くなります。
電気代は変わりません。しかし、寒い分、冬は暖房費が嵩みます。
特に、古い中古住宅は断熱材が未施工だったり、未熟な施工な物が多く、かなり寒いですから、灯油の消費量は並大抵ではありません。
また、意外なところで、テレビの協聴アンテナ代。
山間部では、家の屋根ではテレビの地上波電波を拾えない為、集落ごとに高い土地にテレビのアンテナを建て、そこからケーブルを繋ぎます。
この費用を集落で分担して払うのです。建設の際はNHKからそれなりに補助も出るのですが、私の場合は月1500円納めていました。
また、区費もかなり高額。世帯が少ないので、一家族あたりの費用は嵩みます。私は毎月、なんだかんだで平均4000円ほど納めていました。
そしてお金だけではありません。
祭りの準備は義務。草刈り、清掃も義務。もっとも大きいのが消防団の加入強制です。
田舎はどこも人手不足なので、まず間違いなく5年以内に操法の大会選手に選ばれ、春は毎日2時間くらいみっちり練習です。
選手でない年も、同様に操法の練習とその後の飲み会などで、家族を蔑ろにせざるをえません。飲むのが好きな人なら良いのですが、このシーズン、自分の時間、というのはまったく持てないと思った方が良いです。
しかし、それでも私はその集落になじみ始めていたのですが、更に問題が発生しました。
田舎では家、土地探しがうまくいかない
限界集落でも、住みよい土地、とてもじゃないが住めない土地、というのがあります。
「この土地やるよ!」とおじいちゃんに言われた土地は、上下水なし、道路は未舗装、地目は山林、という様な場所。
他にも格安?で売ってくれる、という土地は冬は雪が積もって車で登っていけなかったり。
格安?で売ってくれる家は柱は三寸、若杉、ボロボロ。瓦の重みで傾いている、というような家ばかり。
集落の住み良さそうな土地を見つけて「売ってくれないか」と交渉しにいくと「ここは息子夫婦が家を建てるかもしれないからダメだ」と、90歳のお爺さんがいいます。
息子さんは多摩の一軒家で定年を迎えているのに・・・。
他にも良さそうな土地が有って聞いてみると、「坪15万円なら良い」と。
都会の人には安い!と思われるかもしれませんが、田舎だと駅、学校から徒歩10分でもそれくらいの値段です。
まさか電車はない、バスは一日2本だけ、そのバス停から徒歩30分、みたいな土地の値段ではありません。
それでもわりと、移住仲間と頑張って探しました。役所にも相談しながら。
でも、無いんです。良い土地、家は売ってくれない。売ってくれるのはとても人が住める場所ではない。
役所が推進しているからといって、集落にその準備があるか、といったら、ありませんでした。
また、それよりも更に問題なのが、人の問題でした。
他所者は出ていけ
冗談の様に思うかもしれませんが、あの平成の時代でも、「他所モンは出ていけ、好かん!」みたいなお爺さんがいました。
そこまで露骨じゃなくても、「ここに住みたいならオレたちのいう事を聞け」的な人は沢山いましたし、「住みたいならまず誠意を見せろ」みたいな傲慢に見える態度は普通でした。
もちろん、沢山の方が助けてくれて、応援してくれたのですが、100人いる集落の内、10人もそんな人がいれば、住みずらい事この上ないです。
ド田舎独特のプライバシーの無さとか、噂話の早さとかは覚悟していましたが、まさか過疎化で困っているから移住を推進しよう、という地域が排他的であるとは思っていませんでした。
そして、とどめが教育の問題です。
教育にお金が掛かり過ぎる
確かに、限界集落の集まり(100人くらい集落を中心に800人の地域)の割に、国立大学に行く子の数は多かった様に思います。
しかしながら、ダンスやスポーツ、ピアノなどの習い事は車で30分走った町に行かねばなりません。
また、塾も町にしかない。高校も町にしかない。という事で、ごく普通の、例えばサッカーチームに入れて、塾にも一つ入って、普通の高校に行って、国立大学に行って・・・というルートですら、破産寸前の費用と時間が掛かるのです!
そのあたりまでしっかりと金額を計算した時、我々夫婦はこの集落での暮らしを諦めました。否、我々移住数世帯、仲間全員が諦めました。
諦めた、というより、実質住む場所も手に入らず、歓迎もされないのに、住むことなど出来ません。
地域活動には率先して出て、火事場にも出動し、幼稚園でも仲の良い友達が出来たのに、本当に残念でしたが・・・。
田舎暮らしに憧れる方へ
こころしてください。
田舎から若者が出て行ったのは、都会への憧れとか、田舎の刺激の無い暮らしに嫌気がさした、とかいう感情的なものではありません。
お金と時間を圧倒的に取られるからです。
安く住める、なんていうのはテレビの中の話だけです。
安く住めるなら若い夫婦が自然と増えるはずなんです、多少通勤時間が掛かっても。
とにかく、単純な家賃とか、土地購入費とかだけでない、しっかりとした生活全般の費用を算出してから、移住をする事をオススメします。
最後に。
安く住める方法もあります。
古い傾いた民家を安く買って、水道は自分で山から引いてきて、自分で野菜を作り、薪を割り、服や靴は貰い物で我慢して、テレビは見ず、スマホも持たず、車も中古の古い軽自動車だけで、というのなら年収200万でも余裕でお釣りがくると思います。
でも、その生活を子供に強いるのか?その生活で社会に子供を送り出せるのか?というあたりをしっかり考えてから、移住される事をオススメします。
あ、最後の最後に。
実際にそうやって幸せに暮らしている若い夫婦が沢山増えている村も岐阜県内に実はあります。
しかしその村は、本当に限界集落になったあと、村を挙げて移住斡旋に取り組んだ結果、成功した様です。
やはり人。歓迎されていると思えば、なんだって乗り越えられる、そう思うんです。
おしまい。
あ!ホントの最後の最後にひとつ。
ボットン便所の場合は汲み取り費用(大体月3000円~)か、水洗便所ライクに使いたいなら、改良浄化槽設置(50万円~)が必要です!改良浄化槽も洗浄が5~10年に一度必要ですから、その覚悟で!
やっぱり最後はう〇ちの話でした。