日本には世界的に見ても多くの登山道があり、またその登山道は急峻な事が多く、更に雨が多い土地柄、荒れやすいと言えます。
しかし実はこの登山道のほとんどは、正当な管理者はいません。
登山道が私有地や公有地など様々な所有者の土地を横切って伸びている事も理由の一つです。
日本の主な山岳は国立公園に指定されていることが多いですが、それさえも40%が私有地なのです。
ばかりか、そもそも登山道は昔からの古道や獣道、古林道などを利用したり、そこから自然に伸びて出来た道が多く、特定の整備者、管理者を持たないのです。
それではなぜ、誰が我々の利用する登山道を整備しているのか、という事ですが、その多くは山小屋と地元山岳会、それに地元有志、山岳関係者です。
環境省や農林水産省、各自治体が整備しているのはその殆どが登山道でなく、観光地の遊歩道の様な道だけです。
そしてそれら登山道を管理する為には、鎖、ロープ、表示板、テープ・目印などを設置する作業が必要ですが、人工物を自然公園の中に設置するためには国の許可と、その土地の所有者の許可が必要です。
しかし、実際のところ、登山道整備において、その多くはいちいち許可申請など出さず、随時、有志によって行われています。
言わば違法に管理している状態です。
にも関わらず、もし設置した人工物が原因で登山者がケガでもしたら、ひょっとしたら責任を負わされかねないのです。
それでも、「有志の皆様」は無償で登山道を管理・整備して下さっているのです。
近年、登山などのアウトドアを町おこしや観光産業育成の呼び水として使おう、という様な事を行政が盛んに行っています。
しかしながら、行政は、登山道などを一時的に開拓したり設備を設置する工事は行いますが、そもそも登山道を管理する部署がなく、また管理する為の予算もないので、作ったら作りっぱなしになります。
次の写真を見て下さい。
場所は某県の県有林です。
以前、某県と自治体はこの県有林にある、とある廃道となっていた古道を整備し、その古道の先にある観光地の集客に使おうと考えました。
古道というのはほとんどが荷車程度なら何とか上げられる様な勾配で作ってありますし、その歴史からみてもわりと魅力的な物が多いのです。
開拓する構想自体は素晴らしく、道の整備だけでなく、近くの古城なども含めての案内板、休憩所、駐車場の設置と、行政がやるだけあって、非常にお金をかけたしっかりとしたものでした。
では、もう一度写真を見て下さい。
なぜこんなに荒れ果てているのか?
古道ですから、歩く人が少ない、くらいではさほど痛みません。
悪いのは、この枝です。古道全体を深く覆う、枝、枝、枝。
この枝は県から県有林の営林を委託されている方々が枝打ちを行った際に落としたものと考えられます。
道に、です。
枝打ちされる方からしたらこれまで通りの作業なのですが、そこは一度整備しなおした古道です。
もし県に管理する部署があれば、数年に一度でも見に来ればこの異常な状態に気が付くはず。
ここを歩こうとすると、まるで罠のように枝が絡まり、かなり体力を削られるし、下りでは危険です。
行政の批判をしたいのではないのですが、つまり現状の体制であれば、行政に登山道の整備などまったく不可能です。
そのノウハウも、人員も、専門家も、お金さえないのです。
登山道が素晴らしい山には、必ず精力的に管理されている山小屋の存在があります。
例えば、北アルプスには「北アルプス登山道等維持連絡協議会」や「北アルプス山小屋友交会」が、登山道の補修を行って下さっています。
万が一の際、管理者責任を問われるリスクを追ってまで、です。
山小屋の無い登山道では、地元の山岳会や有志の方が、なんとか維持管理を行っていますが、正直なところ、参加者の高齢化が進んで一本、また一本と、管理されない登山道が増えています。
登山道は利用するだけ、という方が、登山者のほとんどだと思います。
私だって地元の「マイトレイル」のゴミ拾い、赤テープ、倒木除去程度しかしません。でも、登山道の整備状態に文句を付ける方がいると、ちょっと腹が立つのも事実です。
ましてや、不人気の山域で、大して儲からないにも関わらず、長年整備に携わってこられた山小屋や山岳会の方々には、ある程度の配慮があってもよいのでは、と思うのです。
そういう方々に山小屋の建て替えに散々協力させておいて、いざ新規オープンとなったら管理事業者から外し、今や巨大観光会社となった伊那市観光株式会社に管理を任せちゃうってどうなんでしょうね。
前塩見小屋のご主人、敗訴されました。うまくやりましたね。さすが頭の良い方々は違う。
南アルプスにある伊那市の山小屋「塩見小屋」の元管理人が、指定管理者「伊那市観光株式会社」(社長=白鳥孝・伊那市長)に、小屋の管理委託契約の解除無効などを求めた訴訟の判決が30日、長野地裁諏訪支部であった。吉川健治裁判官は元管理人の訴えを棄却した。さらに損害賠償を求めた伊那市観光の反訴を認め、元管理人に約191万円の支払いを命じた。元管理人は控訴する方針。
原告は個人の山小屋だった塩見小屋を2005年に引き継いだ青山敏樹さん(48)。伊那市が小屋を建て替えた際、営業継続を前提に協力したが、被告は原告に契約解除を明確に申し入れないまま新管理人を公募。契約解除は無効で、原告には賃借権がある――と主張していた。
判決は、塩見小屋を市の行政財産と認定。そのため借地借家法は適用されないとして、青山さんの賃借権を認めなかった。また小屋にあった青山さんの動産の撤去費用などとして約383万円を支払うよう求めた伊那市観光の反訴についても、伊那市観光に事実上の自力救済を認め、青山さんにヘリコプター代と保管料を払うように求めた。(依光隆明)
この裁判に疑問を持たれた方、こちらもご覧ください。