ツキノワグマとは
ツキノワグマの大きさ
ツキノワグマと私たちが読んでいるクマは、東・東南アジアに生息するツキノワグマ(アジアクロクマ)の亜種で、日本に生息するニホンツキノワグマの事です。
日本のツキノワグマは体長100~150cm、体重60kg~100kg前後ですが、大陸のツキノワグマ、特にロシアのツキノワグマは大型で、体長180cm体重250kg超の個体が発見されています。
ニホンツキノワグマの大きさの最大の測定記録は、戦前の物を含めて体重220kgのものが数件あります。
体長においては統一された計測がなされていない為、実際のところ最大値はどの個体なのかよくわかっていません。
というのも、哺乳類の体長は頭頂部から尾の先までの長さから尾の長さを引く(実質頭頂部から尾の付け根までの長さ)とされているのですが、猟師は出来るだけ大きく図りたいので上を向かせた鼻先からつま先までを計測することが昔は多かったし、警察などでは足から頭までを計測するのみです。
捕獲されたクマの計測の様子(引用:京都新聞)
報道は体長の正確な測り方などどうでもいいので、人間と同じような身長で測っても正確な体長で測ってもすべて「体長」として記載するので、報道すらまったくあてにならず、あまり参考にはならない数字が多いのです。
ただ、動物園の記録や学術的な調査の結果から信頼できる大きさを選別すると、若山公園動物園の記録、140cmで230kgの雌を始めとして、150cm220kgあたりが種としての日本のツキノワグマの最大値であると言われています。
立ち上がった身長に直すと170cmくらいだと思いますから、一般に想像されているよりもはるかに巨大なクマも棲息している事になります。
私が出会ったことの有るツキノワグマも大体自分(175cm)より少し小さい程度だったように見えましたし、横幅もあり、実際に会うと恐怖を感じるほどの巨体であるのは間違いありません。
東北のマタギの記録でも自分より頭一つ大きいクマがよく出てきますから、島嶼化が進む日本では大型哺乳類は年々小型化していくとは言え、およそこの数百年はそれくらいの大きさだったんじゃないかと思います。
また、体重については平均的には冬眠前に20%~30%増、冬眠後に20%~30%減しますから、食欲が旺盛かつ縄張りを確保出来ている大型の個体であれば、冬眠前に200kgを越えるのはさほど珍しい事ではなさそうです。
ツキノワグマの食性
ツキノワグマはまず冬眠から覚めると、前年のブナ、ミズナラの残りを漁って食べ、3月になり草木の新芽が芽吹き始めると人間と同じような山菜を食べ始めます。
その後、サクラやキイチゴなどの木の実と、一度に多く食べられるアリやハチ、特にそのサナギを好んで食べます。
秋になると山は多彩な食糧で溢れ、果実なども食べますが、圧倒的に多いのがブナ・ミズナラなどのドングリです。
冬眠前も冬眠明けもドングリが主なカロリー源なので、ツキノワグマにとっては最も重要なのがドングリ類となりますが、ドングリは実は超広範囲で同種が同調して豊作・凶作を繰り返すことがわかっており、ツキノワグマを始め、山の動物に大きな影響を与えています。
ドングリの結実量の同調の影響
ドングリは超広範囲でその年の結実量が同調することがわかっています。
なぜ豊作・凶作が同調するのか、はまだ決定的な理由は分かっていませんが、超広範囲に及ぶ事、その周期が3~4年である事、更にはその周期が短くなってきて、近年は2年になってきている事がわかってきました。
そして凶作になるとクマはドングリが不足し、シカなどを襲って食べる個体が増えます。
狩りに向いているとは思えないクマがシカを襲う、というのは困難に思えますが、実はシカの子供は驚くと動かなくなり、親鹿の助けをその場で待つ習性があり、人間でも簡単に捕まえらるそうです。
クマはその小鹿を狙うのですがなかなか簡単には探せません。
簡単にいくのなら、普段からもっと肉食する個体が増えてもいいはずです(肉食を多くする個体は当然います)。
ただ、クマはそもそも肉食に適した胃腸構造を維持しており、だからこそ草木も人間と同じような繊維の少ない物しか食べられません。
逆に言うと、凶作時に狩りで得物を得ることの出来ないツキノワグマは生き残ってこれなかった、とも言えそうです。
とにかく、そのドングリの不作時に縄張りを確保出来ず、ドングリ以外のカロリー源も得られない熊がはじき出されて、人里に現れる様です。
ツキノワグマはなぜ人里に現れるのか
元いた山林をはじき出されたクマがすぐに人里に現れるわけでもなく、まずは人間の経営する針葉樹林で皮を剥いでその下の食べられる層を齧る個体や、遠くのはぐれドングリを探しにいく個体がいます。
この群生から外れたところにあるはぐれドングリはなんと他の同種と同調しない物が多いそうです。
そしてそういったドングリの場所に向かうかどうかや、熊剥ぎを行うかどうかは、母熊の教育で変わる、という事が分かっています。
ますます人間の様な動物に思えてきます。
それでも冬眠に足る栄養を得られない個体がいよいよ切羽詰まって人里近くに降りてきて、餌となる物を探し始める、と予想されています。
そしてその期間は人間の山林への外出頻度の上昇期間でもありますから、事故が多発する、という悲しい結果に繋がっています。
月別:熊との人身事故発生件数
出典:日本クマネットワーク(2011) 「人身事故情報のとりまとめに関する報告書」
クマが人里に現れるのは果たして悪い事なのか
さて、ここまできて思うのが、ツキノワグマが人里に現れるのは自然にとって悪い事なのか、という点です。
ドングリが凶作年、熊はシカを襲う事が増え、鹿の異常増殖を防いでいるかもしれません。
また、凶作の年は熊がより遠くまで移動するので、山の果実はその種を熊によってより遠くへ運んでもらう事が出来て、その子孫をより広範囲に残すことができます。
更に、熊が人里で人に殺されることによって熊の個体数はある程度で維持され、ドングリ類は食い尽くされる事を逃れている側面もあるでしょう。
そもそも、ドングリの広範囲の同調結実は、熊を始めとした野生動物からの自衛として獲得した特徴であるというのが一番自然な考え方だと思います。
日本は世界でも類を見ない、クルミ・栗・ドングリ類の栽培で定住化を果たした縄文人がいた土地です。
御所野遺跡の栗の木と復元住居(引用:JOMONぐるぐる)
熊の牙・爪を使った装飾品が多数出土していることからも、古来より熊が人里に現れ、殺されてきた事は用意に想像がつきます。
そう考えると・・人間も自然の一部だと考えると、やはり人里に現れた熊はすぐに殺す、というのが自然な行為であるように思います。これは完全な私見ですが。
賛否両論のあるクマ保護活動
ドングリを森に送る事による自然への悪影響
と、ここまで調べた上で、以前賛否両論、話題となった日本ヴィーガン協会の「どんぐりを山に送ってクマを保護しよう」という活動に疑問と問題点が出てきます。
まず、どんぐり類が長い年月を掛けて得た広範囲における同調結実を破壊する可能性があるという点です。
ドングリを同調性をまったく調査せず、まったく別の遺伝子の範囲である森にドングリを撒く、というのは、強引で独善的な自然への介入に他なりません。
また、飢えた熊による鹿狩り、熊の移動の広範囲化による山の果実の植生範囲の拡大を阻害している、とも言えます。
これらの可能性は、熊以外の、接種カロリーの大部分をドングリに拠っている小型哺乳類にも大きな影響を与えている事も示唆しています。
クマを山に返すことによる自然への悪影響
ここまで読んできていただいた方には分かると思いますが、私は日本熊森協会の熊を捕殺せず山に返せにも疑問を持っています。
人里に現れた個体はどの季節においても、愚かな個体、争いに負けた弱い個体、狩りのヘタな個体のどれかであるので、この熊をまた山に返すことはツキノワグマの種としての生存能力の低下を招きかねない、と思います。
日本の山林面積は今現在も広がっています。
あと300年も放置しておけば、針葉樹の経営林は腐り落ちてそこに落葉樹が生え、自然の雑木林が数多く生まれる事は間違いありません。
その為の回復の担い手として、熊が必要なのは理解しますが、弱体化した種では逆に絶滅する可能性さえあるかもしれません。
人間が特定の動物を種として保護しようとすればそのバランスを崩し、また別の種を絶滅に追いやる事もあります。
例えば、能力の低いクマが秋になっても蟻の巣を舐める事をやめず、絶滅危惧種のエゾアカヤマアリが絶滅するかもしれません。
弱いクマがまた帰る事で、本来は生き残るはずの熊の分のドングリも掠め取り、大凶作時に個体群が絶滅するかもしれません。
自然の力を信じず、人間か介入する傲慢な態度こそ自然を破壊する、というのは歴史を見ても明らかだと思うのですが、どうでしょうか。
ツキノワグマに出会ったら
実は登山中にツキノワグマに出会ったらどうしたらいいのか、という事を知りたくて、調べていたんですが、結果的に全く関係ない事を長々と調べていました。
しかも肝心などうしたらいいのか、というのはイマイチわからず・・・というのも恐らく人の命に係わる事なので、誰も彼も責任取りたくないからはっきりとした事を書かない、言わないんですね。
ただ、間違いなさそうな事が有って
- 抵抗する人は抵抗しない人よりも生き残る
- 熊鈴は効果あるけど近寄ってくるバカ熊もいる
- 背中向けて走って逃げるのはマジダメ
くらいしかわかりませんでした。
私としては次、3度目の熊に遭遇したら、左右にウロウロとして「いつでもやってやろうじゃねーか」って感じのオーラを出す檻の中のライオンムーブをかましてやろうと思っています。
そして徐々に後退していく。
長々と調べて書いてそんな事しか分からなかった。
ヒグマ研究の第一人者の門崎充昭氏は「鳴り物と鉈を持て」と勧めていました。
具体的には5分に一度笛を吹け。クマ避けスプレーでヒグマを撃退出来たことはただの一度もない、鉈が一番確実に撃退出来る、という物です。
これはヒグマに対してですが、ツキノワグマにも同じことが言えそうです。
実際、何かで殴った、という撃退報告が一番多いですし。
現実的には、登山中はやはり熊鈴とトレッキングポールでの撃退を図るのが一番良さそうです。
長くなりましたが、この記事を書くにあたり多数の書籍、特に小池伸介さんの書籍を参考にさせていただきました。
興味のある方は是非読んでみて下さい、かなりわかりやすく、素人の私にもすぐに理解が出来ました。名著です。